私、清掃業を営む者として、これまで数多くの「ゴミ屋敷」の清掃に携わってきました。その経験から強く感じるのは、ゴミ屋敷がもたらす健康被害の深刻さ、特に呼吸器系疾患のリスクの高さです。現場で目にする劣悪な環境は、まさに肺炎の温床と言っても過言ではありません。ある夏の暑い日、私は高齢の女性が一人暮らしをされているゴミ屋敷の清掃依頼を受けました。依頼主は遠方に住む息子さんで、母親が重度の肺炎で入院し、医師から自宅の環境改善を強く勧められたとのことでした。現場に到着すると、まず鼻を突く強烈なカビ臭と埃っぽい臭いに圧倒されました。玄関を入ると、床から天井近くまで雑誌や空き容器、古着などが山のように積み上げられ、わずかな通路がかろうじて確保されている状態です。窓は全てゴミで塞がれ、換気は全くされておらず、湿気が充満していました。このような環境では、肺炎を引き起こす様々な要因が複合的に作用します。まず、大量の埃です。ゴミの山は、時間とともに埃を溜め込みます。この埃の中には、ハウスダスト、花粉、繊維くずなどが含まれており、これらを吸い込むことで気管支や肺に炎症を引き起こす可能性があります。特に、高齢者や免疫力の低下している人にとっては、非常に危険な要因となります。次に、カビの繁殖です。ゴミ屋敷は湿気がこもりやすく、カビにとって最適な環境です。食品の残りカスや湿った衣類、紙類などは、カビの栄養源となります。カビの胞子を吸い込むことは、アレルギー性肺疾患、過敏性肺炎、さらには肺炎の原因となる真菌性肺炎のリスクを高めます。また、カビ毒による健康被害も懸念されます。そして、ダニやゴキブリなどの害虫です。ゴミの山は、彼らにとって住処と食料源となります。これらの害虫の死骸や糞は、強力なアレルゲンとなり、呼吸器系疾患を引き起こす原因となります。清掃作業中、私はゴーグルとN95マスク、防護服を着用していましたが、それでも作業後は喉の痛みや目の痒みを感じることが多々あります。住人がこのような環境で日常的に生活していたことを考えると、その健康への影響は計り知れません。私たちは、この女性の家を数日かけて徹底的に清掃し、ようやく清潔な状態に戻すことができました。