入居者が部屋をゴミ屋敷にして退去してしまった。残されたゴミの山と、見るも無残に汚損された室内を前に、大家は「この原状回復費用は、全額入居者に請求できるはずだ」と考えるでしょう。しかし、現実はそう単純ではありません。法律や過去の判例に基づくと、大家が原状回復費用として入居者に請求できる範囲には、一定の限界があるのです。まず、大原則として、入居者は「故意・過失」によって生じさせた損傷については、賠償する責任を負います。ゴミを溜め込み、それによって壁や床にカビを発生させたり、腐食させたり、悪臭を染み付かせたりした場合は、明らかにこの「故意・過失」にあたります。したがって、ゴミの撤去費用や、それによって必要となった特別な清掃(ハウスクリーニング)、消毒、消臭の費用は、原則として入居者に請求することが可能です。壁紙の張り替えや床材の交換が必要になった場合も、その原因がゴミ屋敷化にあると明確に証明できれば、請求の対象となります。しかし、ここで問題となるのが「経年劣化」という考え方です。壁紙や床材などは、人が普通に生活していても、時間と共に自然と価値が減少していきます。例えば、入居から6年が経過した壁紙は、その価値がほぼ1円になるとされています。そのため、たとえ入居者の過失で張り替えが必要になったとしても、大家はその費用の全額ではなく、経年劣化を考慮した残存価値分しか請求できないのが一般的です。つまり、入居期間が長ければ長いほど、大家が請求できる金額は少なくなっていくのです。さらに、最も大きな壁は、入居者の「支払い能力」です。たとえ裁判で全額の支払いを命じる判決が出たとしても、本人に資産や収入がなければ、事実上、回収することは不可能です。結局、敷金で相殺し、残りは大家が負担せざるを得ないというケースが後を絶ちません。こうした現実を踏まえ、大家としては、日頃からの予防策と、万が一の事態に備えた火災保険や家賃保証会社の特約などを検討しておくことが、重要なリスク管理となります。
ゴミ屋敷の原状回復費用!大家はどこまで請求できる?