賃貸物件で発生するトラブルの中でも、大家にとって最も精神的・経済的なダメージが大きいのが、「孤独死」と「ゴミ屋敷」が同時に発生するケースです。この二つの問題は、決して無関係ではありません。むしろ、社会からの孤立という共通の根を持つ、密接に連携した悲劇なのです。セルフネグレクト(自己放任)に陥り、部屋がゴミ屋敷と化していくプロセスは、多くの場合、社会的な孤立と並行して進みます。誰とも関わらず、助けを求めることもできず、生きる気力を失っていく。そんな中で、健康状態が悪化し、誰にも看取られることなく室内で亡くなってしまう。これが、ゴミ屋敷における孤独死の典型的なパターンです。この二重の悲劇が発覚した時、大家が直面する現実は壮絶です。まず、ご遺体の発見が遅れた場合、部屋は凄惨な状態となります。通常のハウスクリーニングでは対応できず、遺体の腐敗による汚損や臭いを除去するための「特殊清掃」が必要となります。この費用は非常に高額で、数十万円から百万円以上かかることも珍しくありません。もちろん、ゴミの撤去費用も別途必要です。さらに、精神的なダメージも計り知れません。大切な資産が人の死によって汚されたという事実に加え、その後の手続きも煩雑を極めます。警察による現場検証、遺族の捜索、相続人との交渉。しかし、故人に身寄りがいなかったり、相続人が相続放棄をしたりするケースも多く、結局、特殊清掃やゴミ撤去の費用は、大家が泣き寝入りせざるを得ないのが実情です。そして、最も大きな問題が、その部屋が「事故物件」となることです。次の入居者には告知義務が発生し、家賃を大幅に下げなければ借り手がつかなくなります。物件の資産価値は暴落し、賃貸経営に長期的な打撃を与えることになるのです。この二重の悲劇を防ぐためには、大家が日頃から入居者の様子に気を配り、孤立のサインを早期に察知し、地域の福祉機関などと連携していく姿勢が、これまで以上に求められています。