私は長年、建築士として多くの住宅に携わってきました。新築からリフォームまで、様々な家を見てきましたが、中でも心に深く刻まれているのは、いわゆる「ゴミ屋敷」と呼ばれる住宅です。そこには、単なる散らかりを超えた、住人の健康を脅かす深刻な問題が潜んでいます。特に、呼吸器系の疾患、中でも肺炎との関連性は無視できません。以前、ある物件の査定依頼で訪れた際のことです。その家は外観こそ古めかしいものの、ごく普通の戸建てに見えました。しかし、一歩足を踏み入れた途端、私は自分の目を疑いました。玄関からリビング、そして各部屋に至るまで、文字通り足の踏み場もないほどに物が積み上げられていたのです。床はほとんど見えず、生活空間は通路状にかろうじて確保されているだけでした。空気は澱み、カビと埃が混じり合った独特の臭いが充満しています。この家にお住まいだった方は、数ヶ月前に重度の肺炎で亡くなられたと伺いました。私は、この劣悪な住環境がその死に少なからず影響を与えたのではないかと直感しました。ゴミ屋敷の環境は、肺炎を引き起こすための条件が揃っています。まず、換気がほとんど行われないため、室内の空気は常に汚染された状態です。埃やチリが舞い上がり、これらを吸い込むことで気管支や肺に炎症を起こす可能性があります。さらに深刻なのは、カビの繁殖です。ゴミの山は湿気を溜め込みやすく、特に食品の残りカスや古い衣類などはカビにとって格好の繁殖場所となります。カビの胞子を大量に吸い込むことは、アレルギー性肺疾患や過敏性肺炎、さらには肺炎の原因となる真菌性肺炎を引き起こすリスクを高めます。また、ゴミ屋敷はダニやゴキブリといった害虫の温床です。これらの害虫の死骸や糞、分泌物などもアレルゲンとなり、呼吸器系に悪影響を及ぼすことがあります。故人が亡くなられた家は、まさにこれらの悪条件が全て揃っていました。特に、長期間にわたってゴミが溜め込まれていたことで、カビや埃の蓄積は尋常ではなかったはずです。清潔な住環境は、健康を維持するための基本中の基本です。しかし、ゴミ屋敷の住人の中には、精神的な問題や身体的な理由から、自力で片付けを行うことが困難な方も多くいらっしゃいます。建築の専門家として、私は単に建物の状態を見るだけでなく、そこに住む人々の生活環境や健康リスクにも目を向けることの重要性を痛感しました。